2017年5月12日金曜日

熊野

京都・奈良の古都から、南に下った陸の端に位置する熊野。山岳修験(しゅげん)の行場でもあるこの地は、朝霧が立ち込める山々から、熊野川を経て黒潮の荒波がつくりだした奇妙な岸壁まで、自然環境も気候も大きく異なります。温暖な気候と大量の雨が育む大森林や、潮流がめぐる海原からさまざまな恵みをいただく一方、熊野本宮大社(ほんぐうたいしゃ)の社殿を流出させた明治の大洪水や、広域にわたり甚大な被害をもたらした2011年9月の台風12号なども。多雨地域で台風の通り道でもあるがゆえ、熊野の人々は自然の恩恵と驚異と、共に暮らしてきました。
熊野本宮大社 住所/和歌山県田辺市本宮町本宮1110
 
平安時代、熊野に現世の極楽浄土を見出した上皇からはじまった熊野詣で。古道(こどう)ウォークはまたたく間に貴族に流行し、やがて武士や庶民までもが熊野を目ざします。杉木立のなかをゆく山の古道は修験道であり、祈りや癒しの道だったのです。山中の道が多少整えられた現在でも、やはり苦や労を経てこそ、聖地へとつながる道。こうしてさまざまな人を受け入れ、神道、仏教、修験道と多様な信仰を受け入れてきた熊野は、平成16年に「紀伊山地の霊場と参詣道」の一部として世界遺産に登録されました。 
さて、神社の鳥居をくぐったら、どうぞゆっくり参道を歩いてみてください。同行者がいても、ひとときおしゃべりをやめて。風にそよぐ葉ずれの音に耳を澄まし、木漏れ日の温かさを肌に感じながら進めば、社殿で鈴を鳴らすころにはきっと心が落ち着いているはずです。熊野三山詣でも古道ウォークも、平安時代のそれとは趣が異なるにしても、乱れた心を鎮め、癒し、いくばくかの力を与えてくれるものに変わりないでしょう。こうして心の平安を取り戻すことが、神々が降りる地を詣でる最大のご利益なのかもしれません。

那智の瀧(飛瀧神社)

幅13mの銚子口から、133mという日本一の落差を下降する名瀑(めいばく)那智の滝。神武天皇が熊野東征(とうせい)の折に見つけ、ご神体として祀ったことにはじまる。今でも社殿や拝殿は置かず、滝を正面に望むのみ。行をつむ修行僧でなくても、その清浄な空気と霧状の飛沫を全身に受ければご利益が。

住所/和歌山県東牟婁群那智勝浦町那智山 地図
参拝自由(御滝拝所は6時30分~16時30分、参入料300円)

熊野那智大社(くまのなちたいしゃ)

那智川沿いの県道から上っていくと、那智原始林として天然記念物に指定されている山を望む、丹塗(にぬ)りの美しい社殿が。主祭神である熊野夫須美大神(くまのふすみのおおかみ)の「夫須美」が「むすび」に通じるところから、古くは「結宮」(むすびのみや)の通称で呼ばれた、熊野権現の本社。今もさまざまな縁を結ぶ諸願成就の社としてにぎわう。
住所/和歌山県東牟婁群那智勝浦町那智山1 地図
TEL/0735-55-0321

熊野速玉大社

清浄な新宮(にいみや)に神々を祀り、自然の恵みを献(けん)じて感謝と畏敬の心で祈りをささげ清め祓(はら)う、神社神道の倣いを実践する速玉大社。熊野信仰の象徴でもある梛(なぎ)の大樹を見ながら参道を行き神門をくぐれば、壮麗な丹塗りの熊野造り社殿と、神社建築に最も多い流造社殿が並ぶ様に圧倒される。
住所/和歌山県新宮市新宮1 地図
TEL/0735-22-2533
参拝自由

熊野古道

熊野三山の信仰が高まった古代から中世。上皇から庶民まで多くの人が熊野を目ざして列をなし、その様子は「蟻の熊野詣で」とたとえられたほど。田辺から山道で本宮へ向かう中辺路(なかへち)、海岸沿いに那智・速玉へ向かう大辺路(おおへち)、高野山から本宮への小辺路(こへち)の3経路は「熊野参詣道」として世界遺産に登録。
-2013年和樂1・2月号より-

後半はこちらから!



旅の前半で熊野”神”巡りをした後は、美味しい料理を巡ってはいかがでしょう。

旅館あづまや

風情と湯を楽しむ古宿

熊野本宮大社を控える奥熊野に、浴衣丹前に下駄でそぞろ歩きたい、昭和の香りを濃厚に残した湯の峰温泉が。とろりと肌にやわらかな湯の高温自家源泉をもつ『旅館あづまや』は、江戸後期の創業。その風情、泉質、美熊野牛(みくまのぎゅう)のしゃぶしゃぶなど温泉を利用した料理で、多くの文人墨客に愛されてきた宿です。
住所/和歌山県田辺市本町湯の峰122 地図 
TEL/0735-42-0012
料金/16,150円~(1室2名利用時2食付き1名料金) 
交通/JR新宮駅からバスで「湯の峰温泉」まで約70分、停留所前

十割そば 森本屋

那智勝浦といえば生まぐろ

西日本一の生まぐろの水揚げを誇る勝浦港から歩いて1分。魚料理を得意とする民宿から転身して10年のそば処。かつお節やさば節、めじかなどでとるやや辛口のつゆでいただくのは、細めでのど越しのいい十割そば。まぐろの仲卸業社で働いていた息子の森本竜輔さんがはじめたそば屋ならではの、料亭に卸すような上質の中落ちを使ったまぐろ丼も人気です。
住所/和歌山県那智勝浦町勝浦451 地図
TEL/0735-52-4578
営業時間/11時~14時,17時~20時(L. O 19時30分)
休業日/第2・4火曜
ざるそばとミニまぐろ丼、味噌汁のセットで1,300円。まぐろ丼のみは900円。1月からがマグロの旬。

まさや

名産さんま寿司ならここ!

熊野地方の郷土食に高菜でご飯を包んだ〝めはり寿司〟がありますが、もうひとつぜひ試したいのが〝さんま寿司〟。旬を過ぎて南下したさんまでつくるもので、程よく脂が抜けてさっぱりした味わい。那智勝浦でその味を知った旅行者が全国から注文するという『まさや』のそれは、10時間近く手をかけた優しいおいしさです。
住所/和歌山県東牟婁群那智勝浦町築地7-3-9 地図
TEL/0735-52-0855
休業日/火曜日
さんま寿司は1本370円。みかんやゆずなど柑橘のやわらかな酸味が隠し味に。こぶ巻きもおすすめ。

0 件のコメント:

コメントを投稿