2017年5月10日水曜日

芦雁(ろがん)図 若冲

美術史の専門家でありながら、親しみやすい語り口と斬新な切り口で日本美術の魅力を説き続ける山下裕二さん。そんな山下さんは、若冲人気の高まりについて次のように語ります。
「もともと若冲は凄かったんです。でも、明治以降の日本人はその凄さに気づかないまま100年近い時を過ごしてしまった。それが2000年の『没後200年 若冲』展を契機にして彼の作品画像が流通しだすと、専門家の小難しい説明なしに、みんなが圧倒的にこの絵は凄いとわかるようになったのです」
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2000年を、若冲再来元年と位置づける山下さんは、2003年の六本木ヒルズの「ハピネス」展でアイコンとなったプライスさん所蔵のあの「象」が衝撃を与え、さらには2006年に東京を皮切りに全国各地を巡回し、延べ約82万人以上という観客を動員した「プライスコレクション 若冲と江戸絵画」展で「若冲人気は沸点に達した」と語ります。
「その意味で2013年の今年、東北復興を祈願して若冲を中心とした『プライスコレクション』展が再度開かれることは、至極真っ当な流れであり、大変に喜ばしいことですね」※2013年和樂4月号より
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そんな山下先生が好きだと語る若冲作品は『動植綵絵(どうしょくさいえ)』の中の一幅。「この『芦雁(ろがん)図』は30幅の中でも最も地味な絵です。色彩も派手ではないしモチーフの数も少ない。でも、この絵は“墜ちていく自分”という人間の深層にあるひとつの心理を描き出した凄い作品だと思っています」
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山下さんは幼少期、多くの人が宇宙船のような船に乗り込もうとしているのに自分だけが乗れず、ひとり宇宙空間に墜ちていくという夢をよく見たと言います。「人間にはそのような墜落への恐怖という深層心理があるでしょう。この絵はまさにその恐怖感を見た瞬間を思い起こさせます」と語り、若冲作品は今後、心理学的な知見からも分析がなされるべきだと語ります。
「さらにこの絵で注目してほしいのは、枝にまとわりついた湿り気のある雪の描写です!溶ける寸前の重量感のある雪を、これほど素晴らしく表現した絵はほかにありません。こんなふうに雪の重みを表現しているのは若冲だけなんです」と若冲の凄さを教えてくれました。
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