2016年1月24日日曜日

ソーシャルメディア進化論を読む

エイベック研究所なるものを知ったのは、4,5年前サークルモールという
コミュニティインフラが企業のWeb戦略の中で、かなりの効果をあげている
ことを知った時である。
今回、そのエイベック研究所を育て、企業コミュニティという新しい
マーケティング手法を開発した武田隆氏の「ソーシャルメディア進化論」
を読んだ。
元々、文系から起業し、Webの世界でビジネスをしてきた事もあり、
技術屋の技術やWeb手法に偏りがちな内容とは違い、茶道、庭園などの
伝統文化からの気付きや人間をベースとした行動の適用など、そのアプローチ
の面白さを改めて感じさせられた。最近のデータの徹底収集と分析を基本
とするビッグデータへの流れとは対極的なアプローチは、我々も、是非、
学ぶ必要があるのでは、と思う。
Webを活用していない経営者からWeb画面のみのかっこよさに現を
ぬかす「Webデザイナー」と呼ばれる人も含め、一読は有益なのでは?
人気のあるサイトやfacebook、ブログ等に共通しているのは、その
コンテンツや仕掛けに「人を感じさせる何かがある」モノが少なくない。
社会的な流れの体現的な場合もあるし、心理的なアプローチの場合もある。
最近は、「デザイン思考法」が色々と参考にされているようであるが、
これからは、人間的な認識センスがないとWeb関連ソリューションでは、
評価されるものを創るのが難しいのでは、と思う。
エイベック研究所のビジネスモデルは、オンラインの「企業コミュニティ」
を提案してこれをじっくり育て、企業の増収増益に寄与することにある。
この企業コミュニティは「スポンサード・ソーシャルメディア」という
もので、エイベック研究所はこのビジネスモデルを研究開発するために
数年をかけ、15億円をつぎこんだとのこと。紹介されている花王、
ユーキャン、ドクターシーラボ、レナウン、カゴメ、ベネッセなどで企業
コミュニティを成功させ、マーケティング効果を収めた。
成功の秘訣のひとつに「20名の法則」の発見があった。ユーザーと
ユーザー、企業とユーザーと事務局の関係構築には、その場がどのように
活性化するのか、その具合を適確につかむ必要があるのだが、エイベックは
およそ参加ユーザー20名前後のところで、その場が急に不活性になること
をつきとめ、これを超えると「思いやり」がゆきとどかなくなるだけではなく、
かえってマイナス効果も生じることに気がついた。
本書では、ソーシャルメディアの地図として、縦軸にネットワークの
「拠りどころ」を、横軸に「求めるもの」を置くことで4つのエリアで
捉えていく。 単純な図だが、これによって4つの象限エリアを見える
ようにして、どこにどのようなはたらきかけをすれば、重複と過疎化を
排除する「集合知」が活性していくかを定められるようになった。
ネットユーザーが匿名性がいいのか実名性がいいのか、関係構築を図りたい
のか、情報交換だけをしたいのか、この4象限がその濃淡をあらわした。
全体を俯瞰するだけでは、見えてこないユーザの想いを絞り込むことは
マーケティングとしては、重要である。
Webの進化により、社会や市場の環境が急激に変わる中、企業サイトも
「よいコンテンツ」があれば、成果の出る状況から変化している。
こうして2007年、花王は第3世代の「場の時代」に移行することを
決める。それがエイベック研究所が開発した、企業と顧客が双方向で対話
する企業コミュニティだったのである。
企業コミュニティの基本戦略は、企業の公式サークルとはべつにユーザー
サークルを次々につくりあげていくというものだ。
企業コミュニティのモデルを作り上げるまでにも、龍安寺の石庭や茶道からの
アイデアが活かされている。
コミュニティがうまく活性化するには、「役割の設定」と「報酬の設定」
が必要と考えている。ブラクティスとインセンティブである。しばしば報酬
(インセンティブ)ばかりが重視されるけれど、実はコミュニティにおいては
参加者に役割(プラクティス)を与え、それにやりがいを感じてもらうこと
がもっと効果的なのである。
また、参加者のなかに“活性メンバー”を発見することも欠かせない。
ふつう、どんなコミュニティでも活発な発言者はせいぜい5パーセントくらい
なものなのだが、この5パーセントこそがその場の命運を握るのだ。
かれらは他者のために「もてなし」をしたい“活性メンバー”なのである。
つまりこの利他的な連中こそがネットワークの“ハブ”なのだ。
エイベック研究所ではこれを「サポーター」と名付け、その正体をつきとめる
ことに全力を上げた。ドクターシーラボが化粧品の通信販売を14億円に
延ばしたときは、「ミッピイ」さんというサポーターが大きな“ハブ”の
役割を果たした。
これを社会学やマーケティングでは「関与モデル」の活性化という。
自分が関わっている出来事や変化が「わが事化」すること、それが
「関与モデル」の一騎当千の作用力なのである。
また、このモデルをビジネスモデル化するために、顧客が企業にもたらす
継続的な価値を、マーケティングの用語ではLTV(ライフタイムバリュー)
という。文字どおりは顧客生涯価値だが、その顧客がブランドにもたらした
利益を累計したものをさす。そこにブランドに対するロイヤルティ(帰属意識)
が見える。だからLTVを高めることは企業の市場命令だ。
そのために、顧客が何をもってブランドに満足しているかのかを、詳しく
知る必要がある。顧客満足度の特性をつかむ必要があるからだ。
そこに企業コミュニティが機能した。
そして、企業コミュニティが機能しただけでは、そこでLTVに見合うことが
どのようにおこっているのかは、まだわからない。そのためエイベックでは
コミュニティ活動におけるKPI(Key Performace Indicator)を測ること
にした。交流量と感謝量の両方のインディケータで満足感や帰属感を推計
するものだ。
これにより、企業コミュニティのマネタイズ・モデルが可能となる。
Webマーケティングへの必要な素養、単なるモデル化からマネタイズ化
することへの探求の強さ、など示唆に富み、学ぶべきとは少なくない。

0 件のコメント:

コメントを投稿