2016年12月4日日曜日

民芸

「民藝」とは、ひと言で言うと美術品を目ざしたものではなく、使うためにつくられた道具のなかで美しいもののことです。自然素材を目的に合わせて用いることも特徴で、必然的に人の手が加わり、色彩や造形、模様が加えられ、用と美が「備わってしまう」ものを言います。ですから、自己顕示欲や邪心を伴うものは、たとえ手づくりであっても自然に醸し出される美しさがないために、民藝とは言えません。
 かつて無名の職人たちは、使い手の意見を聞いたり、他の地域で使われるものの情報を入手して、ものづくりに励みました。日本の手仕事はそのような努力の積み重ねで、成長してきたのです。ですから私は、民藝店を営むかたわら、1年の3分の2は全国の産地を巡る生活を40年以上続けています。手仕事を続けるには厳しい環境のなかで、よい仕事をする職人を支えたい、民藝と使い手を結びたいからです。

柳宗悦が定義した「民藝」

 民藝という言葉は、思想家の柳宗悦(やなぎむねよし)らがつくった造語です。日常に用いる雑器の中に美を発見し、それらを「民衆的工藝」、略して「民藝」と呼びました。身近な材料を使った手仕事が各地で行われていた時代です。柳は『民藝美論(みんんげいびろん)』を記し、民藝の定義となるものを主に8つ挙げています。
一、鑑賞とは一線を画す「実用性」
二、名声を得るためではない「無銘性」
三、使い手の需要に応じる「複数性」
四、日用品としての「廉価性」
五、素材、色や形、模様などの「地方性」
六、量産が可能な「分業性」
七、先人の知恵や技術に学んだ「伝統性」
八、風土や伝統に支えられる「他力性」
 このような柳の目を通して蒐集された品々は東京・駒場の「日本民藝館」で見ることができ、民藝の究極の美を示しています。実際に使い込まれたものも多く、感動があります。民藝を買う際にも、そのような心の動きを意識してみてください。

「民藝」が問いかけていること

 柳の時代から、今の日本は経済的にも生活や自然環境的にも大きな変化を遂げました。当然、手仕事の置かれる環境も。そのため、先ほど挙げた「廉価性」(四)は安価な機械製品の流通におされ、現実的ではなくなっています。また地元の材料の確保が難しい点で「地方性」(五)にも、「可能な限り」という枕詞が必要です。一方で、「身近に使えるもの、手づくりのものが民藝」と安易にとらえる現代の風潮には注意しなければいけません。そこでは、「伝統性」(七)や「他力性」(八)が軽んじられています。
 民藝は、その発生を古代の稲作まで遡る手仕事の文化です。素直につくられた品々が使う者の心をとらえるのは、手から生まれたぬくもりがあるからです。さらに自然の力強さを感じているとも言えます。自然や地域との結びつきを現代の私たちに問いかけるもの、それこそが今の民藝の意義です。
RELATED STORY
〝醬油のふるさと〟和歌山・御坊でレトロな町歩き

大地のぬくもりを食卓に。
色や形にその土地の歴史が隠れています

やきもの

英国の陶芸家、バーナード・リーチが影響を与えた布志名焼(ふしなやき)。その伝統を継ぐ湯町窯の黄釉(きゆう)のピッチャーは、指が安定するように工夫されたハンドルに今もその教えが反映されています。注ぎ口のキレのよさも身上。
島根・松江 湯町窯 ピッチャー 中[高さ18.5㎝]¥8,500・特小[高さ10.5cm]¥4,000

ここで買えます「日本民藝館」

まじめな仕事の美。
山間に続くていねいな手仕事の伝統

かご

丹念に編まれたヤマグルミの存在感が、しみじみ心に沁みるかご。持ち手や縁には耐久性に富むヤマブドウが巻かれているので、やわらかくて持ちやすい。まだ若いつくりての情熱と心遣いが形になっています。
秋田・角館 イタヤ工芸(本庄あずさ) かごバック[幅33×高さ40×マチ11cm] 60,000

ここで買えます「もやい工藝」

RELATED STORY
器だ!美食だ!温泉だ!一泊二日の有田うつわ旅

頼もしい風格と安定感。
奇をてらわない道具の迫力

鉄器

南部鉄器には大量生産型から手仕事のものまでさまざまですが、こちらは人の手で80以上の工程を経たもの。どっしりとした落ち着きがあります。僧侶の座布団に由来する「布団型」は伝統のかたち。おいしいお湯が沸きます。
岩手・盛岡 薫山工房(くんさんこうぼう)南部鉄瓶 布団型 [幅20×高さ21cm・容量1.6リットル] ¥33,000

ここで買えます「光原社(こうげんしゃ)」

DMA-和楽005-2

古来続く木と漆への情熱。
森、木地師、塗師のコラボレーション!

漆器

日本各地の山間部には漆器のふるさとがあり、飛騨高山もそのひとつ。春慶塗(しゅんけいぬり)は、透明度の高い透漆(すきうるし)と健やかな木地の木目が清々しい漆器。写真の盆は、檜を曲げてつくられたもの。その端正な美しさに、使うたび背筋が伸びます。経年変化も、漆器を使う楽しみです。
岐阜・髙山 春慶塗 宗閑盆[直径30×高さ3.5cm]¥11,000

ここで買えます「福壽漆器店」

RELATED STORY
若狭――小さな秘仏と国宝に出会う旅【日本美めぐり旅】

流れるような造形の力技。
炎に向かう日々の鍛錬が形に

ガラス

機械での量産品が主体だった日本のガラス界に、民藝の優品が増えたのは戦後。その立役者のひとり、舩木倭帆(ふなきしずほ)さんに師事した三宅義一さんのガラスは、手になじむなめらかな曲線、奥行きのある輝きなど、機能と造形美の一致あります。ここに水を入れるだけで、食卓が明るく華やぎそう。
岡山 三宅吹き硝子工房(三宅義一) ピッチャー [高さ19.5cm] 15,000

ここで買えます「工芸喜頓(こうげいきいとん)」 

DMA-和楽003

ひと目ひと目に命が宿る。
日本のホームスパンの本家が紡ぐ手触り

織り

明治時代に宣教師が伝えた英国の毛織物「ホームスパン」は、岩手で守られてきました。羊毛を染め上げ、手紬で風合い豊かな糸をつくり、ふっくら織り上げます。10年、20年と愛用でき、心身になじんでいっそう味わいが出ていきます。
岩手・盛岡 蟻川工房 ホームスパン・マフラー [幅20×長さ148cm] 各25,000

ここで買えます「もやい工藝」

DMA-和楽009-2

日本は自然素材の宝庫。
芭蕉が美しい道具に!

ほうき

沖縄の空の下、糸芭蕉から取った繊維が手でよられ、卓上のほうきに。刷毛の密度も、持ち手の握りのよさも、つくり手の細やかな匙加減のたまものです。掃除道具にさえ造形美がある、それが日本の民藝なのです。水洗いして清潔に使い続けたいものです。
沖縄・石垣島 箒 [幅10.5×高さ26㎝]¥800

ここで買えます「工芸喜頓(こうげいきいとん)」 

うつわ、漆器、鉄器、木工品から染織まで民藝――
それは「美しい暮らしの教科書」です

DMA-0909-0108
撮影/小寺浩之、篠原宏明 イラスト/谷山彩子
※各商品は「和樂」2014年12月号で掲載したものです。現在は紹介している店舗で取扱いがない場合もあります。

0 件のコメント:

コメントを投稿