和菓子の老舗「とらや」といえば、真っ先にあの黒く艶やかに輝く、ずっしりとした羊羹を連想する人は少なくないでしょう。竹皮に包まれ、うやうやしくその伝統の重みを伝え続ける「とらや」の羊羹は、多くの著名人をはじめとして、歴代の皇族方にも愛されてきた、和菓子の中の和菓子と言える存在。いわば、羊羹なくして「とらや」の和菓子は語れないと言えますし、また逆に、「とらや」という存在なくして、現在の羊羹も語れないと言っても過言ではないでしょう。それほどまでに、両者の関係は、切っても切れないものだと言えるのです。
羊羹はとらやのアイデンティティ
羊羹とはもともと羊肉のスープのこと。鎌倉時代から室町時代にかけて、禅宗を学ぶために中国に留学した僧侶や、日本にやってきた中国人僧侶が食べていた「点心」のひとつでした。点心とは、1日2食が慣例だった当時の僧侶達が、朝食や夕食の間にとった饅頭や麺類などの軽い食事のことをいいます。
肉食を禁じられていた僧侶たちが、小豆や葛を使い、精進料理としてつくったものが蒸羊羹のはじまりと考えられています。甘い菓子として広まっていくのは江戸時代のことで、寛政(かんせい)年間(1789〜1801)のころには、寒天を入れてねり固めてつくる煉羊羹が考案されたと言われています。これが、今や日本を代表する菓子として欠かすことのできない羊羹の発祥をめぐる物語です。
そんな歴史を秘めた羊羹の名称は、「とらや」に残る寛永12年(1635)の『院御所様行幸之御菓子通(いんのごしょさまぎょうこうのおかしかよい)』と呼ばれる資料に登場し、行幸の際には、御所に538棹も納めたことが伝えられています。当時の羊羹はいまだ蒸羊羹と考えられますが、のちには煉羊羹を主につくるようになるのです。このように、羊羹は「とらや」の和菓子づくりの中核であり、アイデンティティそのものであり続けてきたのです。
写真/基本の素材は3種類。そこにすべてをかける! 右は糸寒天 左上は白双糖 左下は小豆。
羊羹に使われる原材料は、基本的に小豆、砂糖、寒天の3種類のみ。羊羹の種類によって、配合される砂糖や小豆などの種類は変りますが、大きく言えばこの3つの素材のみでつくられます。
シンプルであるが故に、素材の吟味には尋常ならざる熱意が注がれ、和菓子にとって最も大切な「餡」の質を決める小豆は北海道十勝産を、寒天は長野県や岐阜県の指定生産者によって昔ながらの自然を利用した製法でつくられるものだけを使用するなど、とことん素材にこだわっているのです。
シンプルであるが故に、素材の吟味には尋常ならざる熱意が注がれ、和菓子にとって最も大切な「餡」の質を決める小豆は北海道十勝産を、寒天は長野県や岐阜県の指定生産者によって昔ながらの自然を利用した製法でつくられるものだけを使用するなど、とことん素材にこだわっているのです。
「とらや」の羊羹には4種類のサイズがある
その中で、伝統的な大きさと言えるのが、長さ24.5㎝、横7.2㎝、縦6.2㎝の「大棹羊羹」です。
昭和5(1930)年には、香水の化粧箱をヒントに「小形羊羹」が考案され、戦後の昭和27年ごろには、大棹の半分の大きさの「竹皮包羊羹」が登場。
さらに、現代の家庭事情や食事情に合せて、「竹皮包羊羹」の半分の大きさの「ハーフサイズ羊羹」が2015年10月より販売されています。
上はハーフサイズ羊羹1,512円。左から大棹羊羹5,616円、竹皮包羊羹3,024円、小形羊羹260円
昭和5(1930)年には、香水の化粧箱をヒントに「小形羊羹」が考案され、戦後の昭和27年ごろには、大棹の半分の大きさの「竹皮包羊羹」が登場。
さらに、現代の家庭事情や食事情に合せて、「竹皮包羊羹」の半分の大きさの「ハーフサイズ羊羹」が2015年10月より販売されています。
上はハーフサイズ羊羹1,512円。左から大棹羊羹5,616円、竹皮包羊羹3,024円、小形羊羹260円
不動の人気!日本人の心たる三つの味
「とらや」の羊羹には、各サイズに必ず用意されている『夜の梅』、『おもかげ』『新緑』の3種類があり、これらがいわば「とらや」の羊羹の基本の基といえる存在です。
中でも砂糖、小豆、寒天のみでつくられる『夜の梅』は、羊羹としては文政2(1819)年の記録に見えており、今では「とらや」を代表する和菓子として知られています。
また『おもかげ』は黒砂糖入りの羊羹として、『新緑』は抹茶の香りが特徴の羊羹として、愛され続ける存在。ちなみに、ハーフサイズ羊羹のみに用意される和三盆糖入りの『阿波の風』や、小形羊羹にしかない『紅茶』、『はちみつ』なども定番商品です。
左から夜の梅、おもかげ、新緑(しんみどり)
中でも砂糖、小豆、寒天のみでつくられる『夜の梅』は、羊羹としては文政2(1819)年の記録に見えており、今では「とらや」を代表する和菓子として知られています。
また『おもかげ』は黒砂糖入りの羊羹として、『新緑』は抹茶の香りが特徴の羊羹として、愛され続ける存在。ちなみに、ハーフサイズ羊羹のみに用意される和三盆糖入りの『阿波の風』や、小形羊羹にしかない『紅茶』、『はちみつ』なども定番商品です。
左から夜の梅、おもかげ、新緑(しんみどり)
通が注目!風情を感じる四季の羊羹
基本となる3種類に加え、『阿波の風』をはじめとする定番商品が3種類ある「とらや」の羊羹。しかし、これらに限らずまだまだバリエーションは豊かに揃っています。
それが年中行事や季節にちなんだ美しい意匠や、旬の素材を生かした味わいが楽しめる「季節の羊羹」です。春には桜、夏には水辺を表した涼しげな意匠、秋は紅葉の美しさを、冬は千支にちなんだ羊羹などが見目麗しく揃います。
左上/春『雲井の桜』 右上/夏『水の宿(やどり)』 左下/秋『照紅葉』 右下/冬は平成28(2016)年の干支羊羹『跳猿(はねざる)』 価格はいずれもハーフサイズ 1,944円、竹皮包 3,888円
それが年中行事や季節にちなんだ美しい意匠や、旬の素材を生かした味わいが楽しめる「季節の羊羹」です。春には桜、夏には水辺を表した涼しげな意匠、秋は紅葉の美しさを、冬は千支にちなんだ羊羹などが見目麗しく揃います。
左上/春『雲井の桜』 右上/夏『水の宿(やどり)』 左下/秋『照紅葉』 右下/冬は平成28(2016)年の干支羊羹『跳猿(はねざる)』 価格はいずれもハーフサイズ 1,944円、竹皮包 3,888円
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最強の老舗!とらやの歴史を振り返って見たらこんなにすごかった!
江戸時代につくられた伝統菓子、最中
鎌倉時代から室町時代にかけて、禅宗を学ぶために中国に留学した僧侶らによってもたらされた点心。そのひとつが、羊羹という和菓子となって現在まで受け継がれています。
四季が豊かな日本の気候風土に育まれながら、さまざまな味わいと姿形に発展してきた羊羹は、日本人の生活文化に根ざした和菓子の究極の姿と言えるものです。
四季が豊かな日本の気候風土に育まれながら、さまざまな味わいと姿形に発展してきた羊羹は、日本人の生活文化に根ざした和菓子の究極の姿と言えるものです。
和菓子は、姿形や色あいの美しさ、口の中に広がる味わいや食感、ほのかに漂う香り、さらには手にした感触やその銘から受ける響きなどから、人間の五感に訴えかける総合芸術といわれています。
そんな和菓子の中で、江戸時代に誕生し、すっかりポピュラーな存在となっているもののひとつに「最中(もなか)」があります。
そんな和菓子の中で、江戸時代に誕生し、すっかりポピュラーな存在となっているもののひとつに「最中(もなか)」があります。
伝統の菓子の中に生きるパイオニア精神
最中という名称自体は、平安時代に編纂(へんさん)された勅撰(ちょくせん)和歌集のひとつ『拾遺集(しゅういしゅう)』に登場する「水の面に照る月なみをかぞふれば今宵ぞ秋のもなかなりける」に詠まれているように、中秋の名月にゆかりのある言葉でした。
江戸時代に、名月に見たてた「最中の月」(中秋の名月の意)という丸い菓子が誕生、人気を博し、その後、現在の「最中」という和菓子の名前は誕生したといわれています。
はじめに「最中の月」と呼ばれた菓子は、現在の最中の皮に似た麩焼(ふや)き煎餅のようなもので、その形が満月のように見えることから「最中の月」と呼ばれました。江戸時代も後期になって、この煎餅のような皮に餡を挟むようになって、現在の最中は誕生したと考えられているのです。
江戸時代に、名月に見たてた「最中の月」(中秋の名月の意)という丸い菓子が誕生、人気を博し、その後、現在の「最中」という和菓子の名前は誕生したといわれています。
はじめに「最中の月」と呼ばれた菓子は、現在の最中の皮に似た麩焼(ふや)き煎餅のようなもので、その形が満月のように見えることから「最中の月」と呼ばれました。江戸時代も後期になって、この煎餅のような皮に餡を挟むようになって、現在の最中は誕生したと考えられているのです。
「とらや」では「御代(みよ)の春」と銘打たれた菓子が江戸時代には存在していましたが、最中となった「御代の春」は大正時代より販売されました。
同じ大正時代には、伝統的な意匠だけではなく、ユニークな形をしたゴルフ最中が開発されるなど、「とらや」の歴史とともに最中もさまざまな姿と味わいに変化し、現在にいたっています。
同じ大正時代には、伝統的な意匠だけではなく、ユニークな形をしたゴルフ最中が開発されるなど、「とらや」の歴史とともに最中もさまざまな姿と味わいに変化し、現在にいたっています。
梅や桜、菊をかたどった代表的最中
羊羹と並んで「とらや」を代表する和菓子のひとつが最中。日本を代表する花である菊をかたどった『弥栄(やさか)』(小倉餡入)、梅形の『御代の春 白』(こし餡入)、桜形の『御代の春 紅』(白餡入)となっています。
左から「弥栄」、「御代の春 白」、「御代の春 紅」、各195円
左から「弥栄」、「御代の春 白」、「御代の春 紅」、各195円
社用族人気ナンバーワン!? 伝説的最中
「とらや」の和菓子の中でも、斬新なネーミングとユニークな姿で存在感があるのが、ゴルフ最中『ホールインワン』でしょう。ゴルフボールをかたどったこし餡入りの最中なのですが、その誕生は大正15(1926)年といいますから「とらや」の和菓子にあっても既に伝統の菓子と言っても過言ではない存在です。
ゴルフがまだ限られた階層だけのスポーツだった時代に誕生したため、職人たちがその形を表現するのに苦労したという逸話も残っています。
ゴルフ最中『ホールインワン』2個入454円
ゴルフがまだ限られた階層だけのスポーツだった時代に誕生したため、職人たちがその形を表現するのに苦労したという逸話も残っています。
ゴルフ最中『ホールインワン』2個入454円
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和菓子の基本のひとつは饅頭です
和菓子の中で、羊羹と並んで基本中の基本ともなっているのが饅頭。羊羹と並び、中国から禅宗が伝えられたのと時を同じくして日本にやってきた食べ物のひとつでした。
中でも、『虎屋饅頭』のルーツとも言える酒饅頭は、東福寺開山の祖としても知られる聖一国師(しょういちこくし)が中国から帰国して伝えたもの。糯米(もちごめ)と麴を使い、長い時間をかけて元種をつくるので独特のコクのある酒の香りが楽しめます。寒い時季だけの限定品です。
虎屋饅頭400円
中でも、『虎屋饅頭』のルーツとも言える酒饅頭は、東福寺開山の祖としても知られる聖一国師(しょういちこくし)が中国から帰国して伝えたもの。糯米(もちごめ)と麴を使い、長い時間をかけて元種をつくるので独特のコクのある酒の香りが楽しめます。寒い時季だけの限定品です。
虎屋饅頭400円
とらやが誇る生菓子は 季節を映す顔
さまざまな歴史を経て生み出されてきた和菓子。江戸時代になると京都を中心とした茶の湯の文化とともに季節の生菓子も発展を遂げます。四季折々の自然と季節感に溢れた美しい日本の風情を意匠化し、文学的な銘をもつ和菓子は、独自の気候風土に育まれた日本人の鋭く繊細な感性を形にした、まさに「五感の総合芸術」と呼ぶべき存在です。「とらや」では、季節ごとの生菓子を毎月2回種類を替えて、常時数種類提供しています。
羊羹製「手折桜(たおりざくら)」486円
左上/桜餅411円 右上/きんとん製「佐渡路(さどじ)」486円 左下/薯蕷(じょうよ)製「水山吹(みずやまぶき)」454円 右下/薯蕷製「若草饅(わかくさまん)」486円 ※年により販売の色目・販売期間が変わります
左上/桜餅411円 右上/きんとん製「佐渡路(さどじ)」486円 左下/薯蕷(じょうよ)製「水山吹(みずやまぶき)」454円 右下/薯蕷製「若草饅(わかくさまん)」486円 ※年により販売の色目・販売期間が変わります
まだまだあるとらやの銘菓あれこれ
和菓子のパイオニアたる「とらや」には、まだまだたくさんの和菓子があります。下記で紹介している焼菓子の『こがねぎく』や『残月』、干菓子の『推古』、餡をそぼろ状にして蒸し上げた湿粉製棹物(しっぷんせいさおもの)のほか、お汁粉や水羊羹など多種多様。
ただ舌で味わうだけでなく、見た目や菓銘の面白さ、さらには口に入れたときの食感など、五感の芸術といわれる和菓子の楽しみは尽きることがありません。とらやでは常に新しい和菓子が生まれ、次の定番を窺(うかが)っています。
いずれも季節限定の商品。左上/湿粉製棹物「新 春の野」1本1,728円 右上/あん焼「こがねぎく」白餡・左下/あん焼「こがねぎく」黒糖餡・右下/あん焼「こがねぎく」抹茶餡(各)238円
左は生姜入焼菓子「残月」303円、右は和三盆糖製「推古(すいこ)」12個入1,188円
ただ舌で味わうだけでなく、見た目や菓銘の面白さ、さらには口に入れたときの食感など、五感の芸術といわれる和菓子の楽しみは尽きることがありません。とらやでは常に新しい和菓子が生まれ、次の定番を窺(うかが)っています。
いずれも季節限定の商品。左上/湿粉製棹物「新 春の野」1本1,728円 右上/あん焼「こがねぎく」白餡・左下/あん焼「こがねぎく」黒糖餡・右下/あん焼「こがねぎく」抹茶餡(各)238円
左は生姜入焼菓子「残月」303円、右は和三盆糖製「推古(すいこ)」12個入1,188円
※掲載価格は2016年時の価格です。
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